「人間死んだらおしまい」という言葉を聞きます。時には「人間死んだらゴミになる」ともいわれます。
はたしてそうでしょうか。父や母、共に人生を過ごした大切な人との別れは、そう簡単に割り切れるものではありません。二度と生身の人間として会うことのできなくなったという厳しい現実と、亡き方の心に出遇い、亡くなった人から「人生で本当に大切なものは何か」ということを受け取り、仏さまの教えにあう機会が法事なのです。
私たちのいのちは、ただ一人、単独で存在するのではないと仏教は説いています。自分の存在は父、母、祖父、祖母とたどればはるかに遠いいのちの連続のたまものであることは、疑いようもない事実です。
葬儀、中陰(四十九日)、一周忌、三回忌とその「節目」に営まれる法事は、自分のいのちが、はかりしれないいのちのたまものであることに気づき、二度と会うことのできない大切な人や、先祖に感謝の心をささげるものです。
さらに、仏教の目的は苦悩の人生を越え、「仏と成る」ことです。浄土真宗は阿弥陀如来さまに救われ、浄土に生まれ、「仏に成る」教えです。法事とは。大切な人との別れを通し、苦悩の人生を越える阿弥陀如来さまの教えにあう仏教行事です。
法事は、亡き人のいのちに関わること、そして、私の人生に関わることです。法事を勤めるときは、尊いこと、大切なことを営むということを心がけましょう。
広い意味でいえば、法事とは仏教に関する行事すべてをいいます。慶事も弔事も含まれます。
一方、狭い意味からいえば、肉親や先祖の命日(亡くなった日)につとめる仏事のことをいいます。
葬儀の後の「初七日」にはじまり、七日ごとの「七日参り」、「四十九日(満中陰)」「百ヶ日」そして「一周忌」などの「年回法要」。年に一度の亡き人の命日である「祥月命日」、毎月の命日につとめる「月参り」といわれるものがあります。
突然、父親を亡くし喪主としてはじめて葬式をだした三十代後半の男性がいる。
何もかもが初めてのこと。「通夜、葬儀が終わって、四十九日までは悲しみにくれているどころではなかった。事務的なこと、香典返しのこと、四十九日までにやらなければならないことがたくさんあった」と振り返って語っていた。
火葬場からお骨とともに自宅に帰ると、中陰壇に、まずお骨を安置した。中陰壇は葬儀社が用意してくれた。葬儀を手伝ってもらった近所の人たちが集まっている近所の集会所に行き「この度は、お世話になりました」とあいさつ。
正式な初七日は葬儀の三日後というあわただしさ。そこで「身内や親戚の集まりやすい」週末にお寺の方へ連絡した。「仏壇のお飾りの仕方なんかまで気がまわらんかった。」
そんなこんなで初七日。仏壇や中陰壇の打敷は四十九日までは白色のものを使うということは、初七日にお寺さんにお参りしてもらったときに指導してもらった。お寺さんは「普段使っておられる打敷を裏返すと白色ですが、正式には白色のものをもとめてください」と。お花やお香の並べ方は「三具足」というらしい 。
「四十九日の準備は本当に大変。のんびりなんてしてられない。パニックだった」正直な感想である。
葬儀後、葬儀の世話役と会計係から事務の引継ぐ。香典などの現金や、供物や供花などの記録。会葬者の名簿。弔電弔辞。会計の書類(帳簿や領収書)などである。香典の額のチェック。葬儀費用の支払い。香典の金額で葬儀費用がまかなえればいいが、不足するのならばお金の工面。そして、四十九日の法要の準備などをしなければならない。
会葬者や弔問してもらった人に対し「故人の葬儀に会葬していただいたことへのお礼と、四十九日までの仏事を無事つとめさせてもらったという報告」の意味で香典返しは四十九日の法要後に届ける。香典返しの金額はもらった額の三分の一、二分の一とあるそうだが、最近は二分の一が多い。香典返しの表書きは「満中陰志」とする。いずれにしても満中陰のあいさつ状は出すことが慣例。一定額以上を返す場合と全部返す場合もある。一定額以上しか返さない場合は、いくらかを福祉団体などに寄付することが多いようである。
「この 香典返しをきちんとしようと思ったら忙しいよ」。「会社関係と近所で品物は一緒でいいか悪いか」「住所のわからないことがよくあった。父親の交友関係が全部わかるわけではないからねえ」「母はもちろん家族のだれも名前を見てわからない人がいるんだ」品物の選定は葬儀直後からダイレクトメ-ルでカタログが多数送られてくる。その中から選ぶことが多いようである。「どこで調べてくるのかわからんけれど」。
「それから父親がしばらく入院していたからお見舞いのお返しもそのとき お返しとして一緒にさせてもらったんだ」
四十九日の法要の準備は、お寺さん、出席してもらう人との日程の調整が大事。「親戚から、三月越しになるから三十五日にといわれたが、忙しいくて時間が欲しいということと、お寺さんに相談したら、関係ないといわれたので、ちょうど四十九日に近い土曜にさしてもらった」という。「だれを案内するか。来てもらうか、優先順位いうのがやっぱりあったよ」。いろいろと忙しい中で考えたのである。
故人の親がいれば親、故人の兄弟姉妹。子などの身内はもちろん出席してもらわなければならない。故人と交流の深かった人。どうしても出席して欲しい人、親戚などの都合とお寺さん日程を協議して、遅くとも一ヶ月前には案内を送る。
返事が返ってくると「料理(お斎)」「茶の子」の用意となる。「こんな料理にしたい」と決める場合もあれば、「金額はこれぐらいでおねがいします」と金額で決める場合もある。料理を作る人の気持ちからすれば「たくさん量を多くしてもって返ってもらわなければならないより、その場で全部食べてもらえるような程度がいい」という。
「茶の子とはもともと香典返しで食物を配っていたことからいうらしいね。今は法事のおみやげのことらしいけど」茶の子の品は繊維類、陶器、漆器、木製品、金物、食物などが選ばれている。ちなみに四十九日のご仏前は、葬儀の香典より多いということは少ないようである。
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