※茉莉花掲載時の肩書きのまま掲載しております。
文明開化の明治から今日までに最も多くの人に読まれ、感動を与えた本は「歎異抄」であろうと思います。
『仏教書総目録』(1994年版)という冊子には、今、書店で買える仏教書が紹介されていますが、それによりますと「歎W抄」に関する本は43点あります。今は店頭にはありませんが、昭和中期ごろまでに刊行された注釈や講話などを加えますと、その数は170点を越えます。
その発行部数ということになりますと、これはつかめません。ちなみに岩波文庫では、金子大栄校注の『歎異抄』が今年の4月現在で83刷が出ており、累計では何十万部にものぽるものと思われます。
『歎異抄』の文庫本は、他に講談社、角川書店、旺文杜などからも出てまして、それぞれ版を重ねています。点数、部数においても『歎異抄』を上回るものはおそらくないでしょう。
日本の生んだ大哲学者、西田幾多郎博士は、入類の遺産としてぜひ後世に残しておきたい本の一つに「歎異抄」をあげています。親鸞聖人の、み教えを仰ぐ私たちにとって、この本はかけがえのない信仰の書です。尊くなつかしい聖人の語録です。声を出して読みますと、なだらかな文体から聖人の法話がじかに伝わってくるような気がします。どれだけ多くの人がこの本によって、み法に導かれたことでしょう。
『歎異抄』には著者の名は記されていませんが、文中に出てくる聖人のお弟の唯円房であることは、今日、疑う人はいません。常陸の国(茨城県)の人で、晩年は奈良の吉野の下市に一宇の坊を設けて住み、そこで生涯を閉じました。本願寺派の立興寺かその寺で、裏山に唯円房の墓があります。
「唯円房さん、よくぞ耳底に残った親鸞聖人のお言葉を書き留めておいてくれました。ありがとう唯円房さん」
先日、墓に詣でてきました。墓石には「正応二年(1289)二月六日卒 六十八歳」と刻まれてありました。
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