救生主池田 孝子(長崎県)
あかちゃんの手が、
私の手を「ぎゅっ」と、にぎった。
秋風の吹く公園で。
赤ちゃんは、笑顔で私を見つめる。
どす黒い私の心の暗闇が、
一瞬にして青空に変わった。
ついさっきまで、
本気で考えていた。
自殺する方法を、真剣に。
うなだれて考えていた。
目の前に立った小さな影。
おぼつかない足どり。
転びそうな体が、私に覆い被さる。
「すいませーん」。
遠くから、慌てて駆け寄る母親の足音。
ほんの数分の出来事。
抱えられ、去っていく赤ちゃんの瞳。
お母さんの肩ごしに見つめる、
赤ちゃんの瞳。
甘いミルクの残り香。
灯色に、辺りを染め始めた公園に、
立ちすくむ脱け殻。
止めどなく。止めどなく。
洪水の様に、溢れ落ちる苦涙。
つぶやく唇。
「ありがとう」。
「命を、ありがとう」。
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